本資料は,バックオフィス業務を主に担当している国内在住の就業者1,000名を対象に2025年2月に実施したオンライン調査(有効回答650名)の結果を要約したものです。最初に,全サンプルを対象とした分析し得られた結果を簡潔にまとめ,その後で,経理・会計・財務部門に所属する回答者(147名)の回答結果のみを取り上げます。
なお,上記調査に関して,学術的観点から検討した実態調査論文はこちらよりダウンロード・閲覧可能です。
バックオフィス業務を念頭に置き,生成AIの適用候補を17項目取り上げました。特定の業務に限定される項目や個人の水準でその利用を決定できない項目も含まれていますが,より広く実態を捉えるための項目設計となっています。17項目それぞれの活用状況について,以下の4択で回答していただきました。
-「活用していない」:非活用 -「活用予定である」:活用予定 -「活用しているが,成果は不十分である」:活用(成果不十分) -「活用しており,十分な成果が得られている」:活用(成果十分)
下記のグラフは項目別に各回答値の構成比を示したものです。なお,凡例部分をクリックすることで,グラフ上の該当系列の表示/非表示を切り替えることができます。グラフの表示が乱れた場合は,棒グラフ部分をダブルクリックすることで元の表示に戻すことができます。
全体としては,「非活用(予定なし)」が最多であり,項目によっては半数近くに達しています。このことから,生成AIの活用は未だ定着しておらず,その活用は限定的な水準にとどまっているといえます。ただし,項目によって傾向には差がみられます。
「表計算データの集計・加工」や「データ可視化」といった即時的に転用しやすい領域では,「活用(成果不十分/成果十分)」が相対的に高いです。とりわけ前者は「活用・成果十分」も2割超であり,比較的進展している項目です。これに対し,「外部の将来予測」や「不正監視・モニタリング」では「非活用・予定なし」が高く,「活用・成果十分」は1桁台にとどまるなど,導入が進みにくく,その成果も実感されにくい領域となっています。
調査項目別の分布に加えて,回答者個人別にみた特徴的な発見事項は,以下の2点に整理できます。
(1)二極化:使う人と使わない人の乖離
全体としての活用水準は高くない一方で,一部の特定層に活用が偏る傾向があります。具体的には,未活用層ほど今後も活用予定がない割合が相対的に高い一方で,活用層ほど,未活用領域にも活用を広げたいという意欲が強いです。
(2)役職,部門,年齢との関連性
役職・部門・年齢との間で,以下の関係性が観察されました。
生成AIの活用率,成果率,予定率の3指標すべてにおいて,情報システム・IT部門は一貫して高水準である一方,経理・会計・財務部門は特に活用率と予定率で低水準です。
役職階層が低いほど活用率と予定率は低い傾向にあり,とりわけ一般社員では両指標が相対的に低水準です。
年齢が低いほど,活用率,成果率,予定率はいずれも高い傾向にあります。
以下では,経理・会計・財務部門の回答者147名のみを抽出し,個人属性,勤務先企業の特性,生成AIの活用状況,および仕事に対する心理状態の回答結果の分布について要約報告しております。メニューから見出しをクリックすることで,該当箇所へ移動できます。
回答者147名のうち,女性が76名,男性が71名となっています。男女別の年齢構成にほぼ差はありませんでした。全体としては20代がやや少なく,45〜60歳の比率がやや高くなっています。
| 区間 | 女性 | 男性 | 合計 | 割合 |
|---|---|---|---|---|
| [20,25) | 3 | 1 | 4 | 2.7% |
| [25,30) | 7 | 4 | 11 | 7.5% |
| [30,35) | 8 | 6 | 14 | 9.5% |
| [35,40) | 8 | 7 | 15 | 10.2% |
| [40,45) | 11 | 7 | 18 | 12.2% |
| [45,50) | 11 | 12 | 23 | 15.6% |
| [50,55) | 12 | 13 | 25 | 17.0% |
| [55,60) | 8 | 14 | 22 | 15.0% |
| [60,65] | 8 | 7 | 15 | 10.2% |
全体の6割ほどの回答者が大卒となっており,その後に高卒が続いています。
| 学歴 | 女性 | 男性 | 合計 | 割合 |
|---|---|---|---|---|
| 高等学校 | 20 | 5 | 25 | 17.0% |
| 専門学校 | 7 | 8 | 15 | 10.2% |
| 短期大学 | 12 | 0 | 12 | 8.2% |
| 四年制大学 | 34 | 53 | 87 | 59.2% |
| 大学院(修士) | 3 | 4 | 7 | 4.8% |
| 大学院(博士) | 0 | 1 | 1 | 0.7% |
勤続年数は10年未満の回答者が多く(4割強),勤続年数が長くなるにつれ,徐々に回答者が減っていく分布となっています。この傾向は女性でより顕著であり,男性はより勤続年数の長い回答者が多かったです。回答者の年齢構成を踏まえると,転職している回答者が一定割合存在していることが予想されます。
| 女性 | 男性 | 合計 | 割合 | |
|---|---|---|---|---|
| [1,6) | 24 | 12 | 36 | 24.5% |
| [6,11) | 11 | 14 | 25 | 17.0% |
| [11,16) | 12 | 5 | 17 | 11.6% |
| [16,21) | 15 | 8 | 23 | 15.6% |
| [21,26) | 6 | 7 | 13 | 8.8% |
| [26,31) | 4 | 11 | 15 | 10.2% |
| [31,36) | 2 | 10 | 12 | 8.2% |
| [36,41) | 2 | 3 | 5 | 3.4% |
| [41,46] | 0 | 1 | 1 | 0.7% |
回答者の役職をみると,全体としては一般社員が半数近くを占めていますが,その内訳は圧倒的の女性の比率が高く,男性回答者は中間管理職の比率が高かったです。
| 女性 | 男性 | 合計 | 割合 | |
|---|---|---|---|---|
| 取締役 | 1 | 0 | 1 | 0.68% |
| 本部長・事業部長・支社長 | 0 | 1 | 1 | 0.68% |
| 部長 | 2 | 9 | 11 | 7.48% |
| 次長 | 0 | 2 | 2 | 1.36% |
| 課長 | 7 | 23 | 30 | 20.41% |
| 係長 | 1 | 9 | 10 | 6.80% |
| 主任 | 12 | 11 | 23 | 15.65% |
| 一般社員 | 53 | 16 | 69 | 46.94% |
男女ともに,契約・派遣社員(女性4名,男性2名)の比率は少なく,ほとんどが正社員(女性72名,男性69名)でした。勤務先の会社区分に関しては,男女ともに非上場企業が最も多かったですが,上場企業に勤めている回答者も多く,それらのグループ会社に勤めているものも含めると,40%ほどの割合となっています。
| 女性 | 男性 | 合計 | 割合 | |
|---|---|---|---|---|
| 上場企業 | 13 | 27 | 40 | 27.2% |
| 上場企業のグループ会社 | 10 | 9 | 19 | 12.9% |
| 非上場企業 | 51 | 33 | 84 | 57.1% |
| 外資系企業 | 2 | 2 | 4 | 2.7% |
勤務先企業の業種区分では,製造業が全体の25%ほどを占め最も多く,サービス業,建設業,商社・卸売り・小売業がそれに続いています。なお,男女別では,製造業は男性の比率が高く,建設業は女性の比率が高かったです。
| 女性 | 男性 | 合計 | 割合 | |
|---|---|---|---|---|
| 製造業 | 16 | 22 | 38 | 25.9% |
| 農業・林業・漁業・鉱業 | 0 | 2 | 2 | 1.4% |
| 建設業 | 17 | 9 | 26 | 17.7% |
| 不動産業 | 4 | 2 | 6 | 4.1% |
| 商社・卸売り・小売業 | 12 | 9 | 21 | 14.3% |
| サービス業 | 14 | 13 | 27 | 18.4% |
| 情報通信業 | 1 | 3 | 4 | 2.7% |
| 運送・輸送業 | 6 | 5 | 11 | 7.5% |
| 金融・証券・保険業 | 5 | 5 | 10 | 6.8% |
| 電気・ガス・水道業 | 1 | 1 | 2 | 1.4% |
勤務先企業を,中小企業庁の中小企業・小規模企業者の区分定義に基づいて分類したところ,全体では,大企業の比率が最も大きく,中小企業は3割強で,零細企業は2割強でした。なお,男性の方が大企業の比率が高く,零細企業の比率が低かったです。
| 女性 | 男性 | 合計 | 割合 | |
|---|---|---|---|---|
| 零細企業 | 26 | 9 | 35 | 23.8% |
| 中小企業 | 27 | 18 | 45 | 30.6% |
| 大企業 | 23 | 44 | 67 | 45.6% |
先ほどの全サンプル版と同様に,凡例部分をクリックすることで,グラフ上の該当系列の表示/非表示を切り替えることができます。また,グラフの表示が乱れた場合は,棒グラフ部分をダブルクリックすることで元の表示に戻すことができます。
最も活用の程度が高いのは,「アイデア出し・ブレインストーミング支援」で,試しやすい知的作業領域でした。そのほかには,「請求書・伝票・領収書からの取引情報の自動抽出」や「社内問い合わせ対応(チャットボット)」といった組織的な取り組みが背景にあるものや,「社外向け文章生成」や「翻訳・要約」といった成果物がテキスト中心で既存業務への組み込みが容易かつ試行錯誤による改善がしやすい項目が相対的に活用が進んでいました。
なお,全サンプルでは,アイデア出しといった活用方法の割合は相対的に低く,表計算等のデータを扱う項目が上位となっています。
他方,「外部環境の予測」や「不正の監視・モニタリング」といった正確性や説明責任が求められる,統制上の影響が大きい高リスク領域ほど慎重姿勢が強い傾向が見られます。この点は,全サンプルでも同様の傾向です。
以下の表は,項目別の回答結果です。項目ごとの合計数は回答者数の147となっています。表の一番上の太字部分をクリックすることで,昇順・降順の変更が可能となっています。
以下では,上記の度数データを用いて,項目別そして回答者別に生成AIの活用状況を整理し,その結果をまとめています。
項目別に算定される活用率,成果率,予定率の3指標の算出方法は以下の通りです。
項目ごとに,「活用しているが,成果は不十分である」と「活用しており,十分な成果が得られている」の回答合計数を算出し,それを回答者総数の147で割った比率
項目ごとに,「活用しており,十分な成果が得られている」という回答数を「活用しているが,成果は不十分である」と「活用しており,十分な成果が得られている」の回答合計数で割った比率
項目ごとに,「活用予定である」という回答数を「活用していない」と「活用予定である」の回答合計数で割った比率
先の表と同様に,一番上の太字部分をクリックすることで,昇順・降順の変更が可能となっていますので,必要に応じて変更してください。
活用が相対的に進んでいるのは,「アイデア出し・ブレスト支援」で,活用率が47.6%と最も高く,成果率も45.7%と高い水準でした。活用率の水準という意味では,2位以降は35%前後となっており,やや乖離のある結果となっています。
最も成果率が高かったのは,「社外向け文章の生成」であり,活用率34.0%に対して成果率48.0%と使った人の手応えが強い領域でした。その他,成果率の高い項目の特徴としては,生成AI適用による効率性の改善(作業時間の短縮や手間の回避など)が見えやすいものが上位に来ていました(「仕訳の自動化,翻訳・要約,表計算,情報抽出」など)。
その一方で,「外部の将来予測」や「不正監視」は相対的に低い成果率となっています。これは精度や効果的な実行可能性という面で課題を抱えている(あるいは本質的な難しさがある)と考えられます。
今後の活用予定に関しては,活用率や成果率ほどの差異は見られず,総じて現在活用していない領域に関しては,今後も活用予定がない傾向が強かったです。
先の3つの活用に関する指標を,下記の方法に従い,個人別に算出しました。
回答者ごとに,「活用しているが,成果は不十分である」と「活用しており,十分な成果が得られている」の回答合計数を算出し,それを項目総数の17で割った値
回答者ごとに,「活用しており,十分な成果が得られている」という回答数を「活用しているが,成果は不十分である」と「活用しており,十分な成果が得られている」の回答合計数で割った比率(分母が0となる場合は欠損扱いとしています)
回答者ごとに,「活用予定である」という回答数を「活用していない」と「活用予定である」の回答合計数で割った比率(分母が0となる場合は欠損扱いとしています)
これら個人別の3指標の基本統計量を示しているのが下表です。どの指標も最頻値が0となっており,これは生成AIを全く活用していない回答者,生成AIを活用しても十分な成果を全く感じていない回答者,今後も活用予定が全くない回答者が数多くいることを示しています。
また,中央値と平均値の乖離もそれなりにある上に,標準偏差がかなり大きいことを踏まえると,生成AIの活用,活用による便益の享受,更なる活用といった3つの側面全てにおいて,個人間差異が非常に大きいことが伺えます。0の回答者数が多いことを踏まえると,生成AIを積極的に活用しているのは一部の人に偏っていると言えます。
| 最小値 | 最大値 | 最頻値 | 中央値 | 平均値 | 標準偏差 | |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 個人別活用率 | 0 | 1 | 0 | 0.18 | 0.32 | 0.36 |
| 個人別成果率 | 0 | 1 | 0 | 0.25 | 0.32 | 0.35 |
| 個人別予定率 | 0 | 1 | 0 | 0.00 | 0.24 | 0.36 |
最後に,仕事に対する心理状態(活力,熱意,没頭)を測定するワーク・エンゲイジメント尺度と生成AIの個人属性3指標との関連性について確認します。
ワーク・エンゲイジメント尺度は日本語版の妥当性がShimazu et al.(2008)によって検証された9項目の短縮版です。詳しくは,清水先生のHPでご確認ください。以下の9項目に対して,「0:全くない」,「1:ほとんど感じない(1年に数回以下)」,「3:時々感じる(1ヶ月に数回)」,「6:いつも感じる(毎日)」の7件法での回答となっています。
これら9項目の平均値と生成AIの個人別の3指標との相関を算出すると,活用率(\(r = 0.289, p < 0.001\))と成果率(\(r = 0.331, p < 0.002\))との間に弱い正の相関が観察されました。つまり,仕事に対する積極的な活力を得ている人は,生成AIの高い活用率と成果率を示す傾向にあります。もちろん,単なる相関関係であり,因果関係を示すものではありませんが,生成AI活用の契機・影響は,人事マネジメントの観点からも,注目・検討する余地があるように思われます。
なお,これまでに当研究室で実施してきた調査概要については,ホームページにて関連文献とともに紹介しておりますので,ご関心がございましたら,ご参照いただけますと幸いです。